『あの曲はアレンジするのむちゃくちゃ難しいんですよー』
羊毛君は下北沢のドッグカフェで僕の愛犬をわしゃわしゃしながら言った。
ちなみに愛犬はジャックラッセルテリアで名前をジャックという。
『でもあの曲はふたりに絶対合うと思うんだよなぁ』
僕は諦めずに言い返す。
あの曲とはトム・ウエイツが昔書いた曲で、歌ったのはリッキー・リー・ジョー
ンズだ。
彼氏が彼女に贈った曲を別れた後に録音したとされているが真偽の程はわからない。
『girl at her volcano』というRRJのアルバムの最後に収録されていて、何しろ
僕は大好きな曲なのだ。
やるともやらないとも羊毛君は言わずジャックをわしゃわしゃしながらアイス
コーヒーを飲んでいた。
その後も何度か同じようなやり取りと同じような時間を下北沢で過ごし、羊毛と
おはなの何枚目かのアルバムが出た。
その中に羊毛君の見事なアレンジで『RAINBOW SLEEVES』は収録されていた。
僕は嬉しくて何度も何度も繰り返し聞いた。
この曲、邦題は『虹の袂(たもと)』と当時RRJのライナーに書いてあったよう
な気がする。
やるなぁ・・ふたりとも。
『RRJ越えたんじゃない(笑)』とメールしたら『とんでもない・・!汗』と羊
毛君から返信があった。
でもふたりの『虹の袂』は、本当に素敵だ。
儚くて、切なくて、温かい。
演出家・心理カウンセラー 村本大志